ある日の午後 | 夢の欠片 -パニック障害な私ー

ある日の午後

「ちょっと!」

「早くここ、開けてよ!」

ドン、ドン、ドン

ん?・・・なあに・・・

「開けなさいってば、何やってんの」

えっ!

ああ、お母さん。

ええっ!

私は、急いで、目を擦った。

車の外には、

母がイライラした様子で立っている。

え、あ、開けるのね。

慌てて、ロックを外す。

助手席のドアが開いて、

「もう、トランクも開けてくれなきゃ、

 荷物、入れられないじゃない。」

ああ、トランク、トランク・・・ね。

パカッ。

あっと、いけない。

給油口の方だった。

やっと、トランクが開くと、

母は、両手いっぱいの荷物を放り込んだ。

いったい、ぜんたい、どうなってるの?

第一、ここって、どこよ?

辺りを見回すと、

いつも行ってた大手スーパーの駐車場らしい。

すっかり、日は落ちて、

あちこちの店のイルミネーションが点り始めた。

「遅くなっちゃったわ。

 さ、早く帰りましょ。」

帰るって、どこへ?

うち?

「何してんの?

 寝ぼけてるんじゃないの?

 ああ、寝てたのね。

 私、遅くなっちゃったから。

 ごめんね。

 偶然、会ったのよ。

 高校の同級生。

 ついつい、長話しちゃって・・・」

「ああ、そうなの・・・」

スターターを回しながら、

私の頭は、ミキサーで掻き回されたように、

記憶の断片がグルグルと踊り狂っていた。

 



 

 

 

「ほら、あんたの好きなエビドリアとポテトサラダ。」

うちは、何にも変わっていなかった。

以前のままだ。

一週間分の食料を、

冷蔵庫に詰め込むのに忙しい母は、ほとんど無言だ。

夢をみてたっていうの?

あんなに長い・・・鮮明な・・・夢って、

そんなのあるかしら?

”ピンポ~ン”

「あら、誰か来たわ。

 お店の方ね。

 何かしら?

 あんた、ちょっと、出てみてよ。」

ブティックの方へ降りていくと、

そこも、前のままだった。

ガラス戸の向こうに、人影が見えた。

カーテンを開けると、

男がひとりで立っていた。

あ、

あ、あ、あの男。

あの男だわ!

ドアを開ける手が、小刻みに震えた。

「すみません。

 お休みのところを、申し訳ない。

 昨日、買いそびれてしまったもので・・・」

「昨日?」

「ええ、母の日に渡したかったんですが、

 昨日は、急用ができてしまって・・・

 それで、その、

 前からこちらのウィンドウに掛けてある、

 その、あの半袖のセーターを、」

「お帰りください!」

「え?、いや、あの、僕は・・・ただ、」

「あなたにお売りするものはありません!」

「あっ、いや、ちょっ、待って、」

言うや否や、ダン!、と、ドアを閉め、

鍵を掛け、サッと、カーテンを引いた。

一連の動作を終えた私は、

へなへなと、その場に座り込んでしまった。

「これでいい。

 これでいいのよ。

 私たち、助かったんだわ。」

 

 

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